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執筆者の写真hfarm1108

本物の食材

 スローフードという言葉が世の中で言われるようになって、もうどのくらいになるでしょうか?自然農法では、時間というものが大変重要なキーワードになります。

 自然農法では、土に対し肥料を投入するという概念がありません。それは、元もと『土は肥料の塊』だからです。一般的な農法でよく言われる“土づくり”とは、土の養分や微生物のバランスなどの足りない部分を、様々な資材を人為的に投入する事により補い、調整しようとするものです。これを一般的には“肥培管理”(ひばいかんり)と言います。自然農法ではこのほとんどを大自然の力に委ねるのです。土を肥やす目的で今まで投入してきた肥料は、実は結果的に土の力を弱らせる“肥毒”(ひどく)となり、それを3年~5年という時間をかけて抜いていくという事が、自然農法における“土づくり”という事になります。つまり、土に何かを入れるのではなくて、逆に抜いていくのです。抜くといっても、何か機械的に吸い取るのではなく、ただ愛情を注いで作物を作り続けるだけです。

 肥料を投入すれば、すぐに成果に繋がりますが、自然農法では、いい作物が出来るようになるまでにはどうしても時間が必要となります。この時間を認めるというところに、人間が何かより大きな力に委ねるという要素が生まれます。この委ねるという事こそ、自然農法の最も美しい精神の表れです。

 自然農法の作物は他のそれよりゆっくりと成長します。肥料を投入して早く収穫しようとする行為は、大自然の速度を待っていられない人間の欲の表れのようにも見えます。今日種を播いて明日収穫出来ればいいですが、そうはいかないでしょう。時間のかかるものだと、収穫までに1年以上も畑の中にあります。その間作物は、毎日毎日、火素と水素と土素つまり『自然力』を吸収して成長していきます。食べるのは一瞬ですが、私達人間は、“自然力×時間”を頂いているのです。

 また、自然農法では自家採種(自分で種を採る事)を重要視します。その目的は大きく2つあり、ひとつは種に含まれる肥毒(ひどく)を抜いていく事と、もうひとつは、その土地の風土に順応させる事です。どちらも数年いう時間を要する作業ですが、そこを通る以外に正しい生命の姿を実践する方法はありません。

 『自然無視、生命軽視』の考え方、それが現代人の中にはあります。生命の営みには、時間が必要です。それを早めたり、跳び越したりは出来ません。社会がどんなにスピード化されようとも、1か月でお米が出来る事はないのです。

 自然農法の作物は、正しい時間を経て出来あがった本物の食材です。


                                     橋本 進


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