畑の虫を殺す事が出来なくなった。それは私自身が、自然農法を続けて来て大きく変わった事のひとつです。自然農法を始めた頃は、作物を荒らす害虫が許せなくて、キャベツに付いた青虫を片っ端から殺してまわった事もありました。そんな自分に優しさを与えてくれた自然農法に心から感謝しています。自然農法は私を正しい場所へ導いてくれました。
土壌微生物学者のイレイン・イングハム博士は、地球上の土で植物を育てられない様な土はどこにもないと言います。そこに土がある限り、植物を育てるために必要な栄養素は全て備わっているのです。大自然をよく見つめれば、それが本当の事だと気付きます。森林も野原の植物も、肥料を与えずとも見事に美しく育っています。
我々人間は、作物を作り続ければ、土に栄養分が無くなってしまい、いつしか作物が出来なくなってしまうと思い込み、土に対し肥料を入れる必要があると思い、今日まで農業を続けてきました。一種の『肥料迷信』のようなものを信じるようになってしまったのです。実は、肥料こそが土に対して有害作用をするもので、肥料を施せば一時は効果があるけれども、だんだんと土は生命力を失い、肥料に頼らなければ作物を育てられないような土になってしまいます。自然農法は、この肥料迷信から人々を目覚めさせる運動でもあります。
自然農法では、肥料を投入するという概念がありません。土は自ら栄養を作り出すことができるからです。そういう意味では、土は『肥料の塊』であり、永久に作物を育て続ける事が出来るのです。
農業における自然農法への転換は、単なる農業技術の問題ではなく、大自然との関わり方の変革であり、それは『農業の大革命』と言えるでしょう。人類史上の大きな革命と言えば、かの産業革命が思い出されますが、『農業の大革命』は、それ以上の革命だと言えるのではないでしょうか。物質面での大きな革命であった産業革命は、物質文明を飛躍的に向上させ、人類の生活を一変させました。自然農法へのシフトチェンジは、精神面の大きな飛躍を意味するものであり、大自然に寄り添って生きるという、“人間の生き方”の革命です。
大自然から搾取したり、支配しようとする、人間の行きすぎた考え方を改め、『大自然に追随し、その恩恵に浴する』という『自然順応、自然尊重』の生き方へ引き戻す力が自然農法にはあります。これこそが自然農法の役割だと言えるでしょう。
消費者1人ひとりが、自然農法の農産物を選び、それを次の人にも伝え、社会全体が自然農法を支える事が出来れば、大きな波を起こす事が出来ます。
この地球という惑星は、私達人類の共通の棲みかであり、全てが繋がっています。私達人間が大自然に寄り添って生きる事が出来れば、大自然は我々1人ひとりに有り余る程の恵みを与え、健全に生かしてくれることでしょう。
どこまで優しい畑を作れるのか。自然農法の生産者として、これからも追い求めて行きた
と思っています。
橋本 進
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