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科学者の想い

 アメリカ、ロデール研究所の主任研究員だった、イレイン・イングハム博士の講義を受けて、私は大変感銘を受けました。彼女は土壌の中の微生物の重要性について話してくれました。

 土は3つの要素から成り立っていて、1つは土そのもの、つまりミネラルであり、2つ目は有機物、そして3つ目は土の中の微生物達です。土はもともと岩石がバクテリアの働きによって永い年月をかけて細かい粒子になったもので、粒子の大きさによって、砂、シルト、粘土に分けられます。

 イレイン博士は、植物を育てられない土はどこにもなく、そこに土がある限り必要な栄養素が全て含まれていると言います。『土は肥料の塊』という言葉を科学的に説明してくれました。

 岩石から始まって、土は最後には森になるのですが、その過程でバクテリアと菌のバランスが変わって行きます。岩石に近い状態では、殆どがバクテリアばかりで、森に近づくほど菌類が増えて行き、森ではほとんどが菌類ばかりの土になります。バクテリアと菌類の割合が10:1になると雑草が育つようになり、10:3でキャベツやブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物が良く育ち、10:7でナスなどの野菜が、1:1の割合になると麦やトウモロコシなどの穀類が良く育つようになります。土の中の微生物の状態が適正ならどんな土でも作物は無肥料で育ち、しかも連作が出来るようになるとイレイン博士は言います。自然農法のキーワードは、無肥料、自家採種、連作、人間の愛情ですが、博士は科学者の立場から、無肥料と連作こそが大自然の正しい姿である事を説明してくれました。

 ところが、農薬や化学肥料、きゅう肥(動物の糞)等の投入や、トラクターなどの大型機械によって土を痛めつけると、森へ向かっていた土は逆戻りし、バクテリアと菌類のバランスは壊れ、肥料に頼らなければ植物を育てられない“死んだ土”になります。この事は、人間と大自然の関わりについてのメッセージを投げかけています。どうして、土は常に森に近づこうとするのか?どうして、バクテリアと菌類の両者が存在するのか?どうしてその割合が変わっていくのか?人間はどこまで大自然に手を加えてもいいのか?

 仮定の話ですが、もし、現在の様な貨幣社会が無くなり、お金に価値が無くなったとしたら、人間の“働く”事の意味は大きく変わります。もし、農業が作物を作って売る事が目的でなくなったら、土に種を播き作物を育てる事の意味は何でしょうか?

イレイン博士は、土の中の真実を明らかにしたいと研究を続けます。それは大自然と人間との関わりを明らかにし、人間の正しい“生き方”を多くの人に知らせたいからに他なりません。自然農法は、安心安全の作物を作るための栽培法のひとつと言うだけでなく、人間の正しい生き方の提示であります。地球上の多くの土地で自然農法が実践されるようになれば、人間はもっと楽しく、もっと喜びの中で暮らしていけるようになるでしょう。

                                     橋本 進


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